延延と咀嚼を続ける彼を眺めていた。白米をガツガツと掻き込みながら。彼もどこかで飲み込むタイミングがあるはずなのだが、元々一度に口に入れる量が少ないせいで外目からはさっぱり分からない。ごくん、と飲み下す度に音がする此方とは大違いだ。
「お侍さんはさ、粗食? だよね」
「団長、それを言うなら小食だ」
彼に話しかけたつもりだったのに、真っ先に返しを入れてきたのは阿伏兎だった。当然と言えば当然かもしれない。彼はあまり多く喋らない方だし、返してきたとしても話をずらしたりするし、彼の部下たちもあまり俺らに話したがらない。あれ、ひょっとして俺嫌われてる?
対面の彼へと向けた目で、彼の手付きを中心に捉える。彼の食事時の所作は、掲げている思想からは想像も付かないほど、いつも正しく綺麗だ。聞くところによると実家はオカネモチらしいので、教育が良く行き届いていたのだろう。箸の持ち方は模範解答そのものだ。俺は食事のマナーとかはよく知らないけれど、阿伏兎が裏で感心していたほどだからきっと完璧なんだろう。このご飯が口内で溶けて無くなっているんじゃないかと疑う時間の長さ咀嚼し続けているのもマナーの一つに違いない。そうじゃなかったとしたら、歯が弱いのか。こんなこと口にしたら彼の隣に控えている弾丸女にぶっ放されそうだけれど。でもそれも食事時を抜くなら悪くない。
食事する彼は、とても静かだ。正直な話、咀嚼しているのかどうかすらよく分からない。口は確かに動いている。しかし微少にだ。あんたの食べ方は五月蝿すぎる、あんたもああいう食べ方をちょっとは見習ったらどうだ、と何回阿伏兎に言われたことか。二回くらいだったかもしれない。そんなに多く彼らと食事を共にはしていない。
今晩の豪華な料理。それは全て目の前の彼の為にある。
小食とさっきは表現したが、それは夜兎基準だ。人間基準では多すぎず少なすぎない量をきちんと摂取しているように思える。彼が目の前の卓にある物を余しているところを見たことがない。食事係が調節しているのだろうか。
彼は今晩の豪華な食卓を、いつもと何ら変わりないかのごとく摂食している。盛り上がっているのは彼の部下ばかりだ。
「ねぇ阿伏兎。俺たち何で呼ばれたんだろう」
「知りゃしねーよ。一応の同盟相手だからじゃねーのか」
ふーん、とてきとうに相槌を打ってまた白米を掻っ込む。まぁ、いいか。ご飯美味しいし。
彼の静謐な動作。取り繕った物には見えない。体に染み付いたどんなになっても変えられない動作に見える。
彼の獰猛な瞳。抑えきれない狂気と欲望が爛爛と光ったそれをはっきりと知っている。戦闘欲がぞくぞくと湧く瞳。でも、どこか悲しい色を宿した瞳。
彼がどうしてちぐはぐになったのか、俺は知らない。知らなくていい、関係ない。ただこれだけは言える。やっぱり侍って奴は面白い。