いつかの朝に似ている

ヅラも自炊をする。俺くらい器用に何でも作れるわけじゃないが和食の腕はまあまあいい。新八がお世辞無しに美味しいと顔を綻ばせて、神楽が何杯もおかわりを要求するほどの腕前だ。少々普段坂田家に並ぶ料理より味が薄いと感じるがそこは各種調味料でカバーだ。しなくとも噛んでいれば味がじんわりと染み出してくる。ストレートに言えばうまい。ヅラの和食はうまい。この出汁巻き玉子だってうまい。出汁がよく染み込んでいる。作りたての温かいふわふわの生地がなんなく歯に噛み崩されていく。味噌汁は塩気が足らないと感じる。米はやや硬め。ほうじ茶が喉を潤し温めながら滑り落ちていく。こいつの作る朝食、いつもだいたい似たメニューだよな。漬け物を箸につけて思う。涼やかな朝。かぶき町の喧騒から離れた純日本家屋の一室にて、穏健派テロリストと向かい合って朝食を摂る。銀さんまた朝帰りだよ、どうしようかなこれ、ついでにパチンコでも寄って帰ろうかな。どうせ依頼来てねーだろうし。
こうやって泊まって朝を迎えることは一度や二度じゃない。白ペンギンは一緒にいたりいなかったり、まちまちだ。ヅラの作った飯を食うのもこれで何度目だろう。たまに自分の方が先に起きててきとうにあったもので二人分あるいは三人分作ることもあるからますます回数が曖昧だ。数えた事なんてねえけど。ヅラに聞いたって知らんと言うに決まってる。ヅラの家で過ごす朝は、普段の俺たちのやりとりを知ってる奴らからすると存外、穏やかに時が流れる。朝だからだろうか。俺のツッコミ回路もヅラの電波ボケ回路もまだ万全に整ってないからだろうか。なんでだろうか。
「銀時」
「んぁ?」
「顔は洗ったのか、まだ寝ぼけ眼だぞ」
「洗ったよ」
「ならもっとしゃきっとせんか」
「お母さんかよてめーはよ」
「お母さんじゃない桂だ」
どうせすぐに騒がしくなる。どうせすぐにそれで目が覚める。どうせすぐ否応なしに互い、人が集まってくるんだ。
まぁ、二人だからだろうな。と結論づけて、完食した椀に箸を乗せた。