神楽ちゃん、今日の天気は?

目を瞑る。教会で神様に祈りを捧げる時には、手を前で組んで目を閉じるのが普通のポーズなのだと、誰かに聞いた。
片手に傘を持っているから、瞳だけ閉じる。

その昔、初めて神様に祈ったのは雨の日だった。子供ながらにこんなことをしても絶大な力は起こらないと知ってはいたが、祈らなければもっと悪いことが起こる確信めいた気持ちがあって、祈らずにはいられなかった。
おかあさんのびょうきがはやくなおりますように。
毎日していた祈りは、ある日、無慈悲に中断を告げられた。

それから神様のことは前よりあまり重要に考えないようにした。願いは自分で何とかするんだ。でも、ちいさい願い事なら祈ってもいいかな。
明日もお茶づけご飯が食べられますように。
願いは叶えられていった。

よく晴れた日に、散歩で気軽に立ち寄った教会のステンドグラスがきらきら光ってきれいだった。隣にいた新八が「神楽ちゃんなら何をお祈りする?」とまったく深刻じゃない口調で聞いてきた。
「明日もおいしい卵がけご飯が食べられますように!」
勢いよく手を打って頭を垂れるフリをする私に新八はあははと笑って、銀ちゃんが呆れた声で「お前が献立担当ならいつまででも卵がけご飯だよ」と言った。

私が祈ったのは、ちいさな願い事だった。閉じた瞼の向こう、雨が降っている。
明日もおいしい卵がけご飯が食べられますように。
違うのだ。卵がけご飯なら、食べようと思えば食べられる。私が食べたいのは、おいしい卵がけご飯。
うるさくて、にぎやかで、足がぶつかって、手もぶつかる、そんな空間で食べる――
目を開けた。定春が心配するような声で鳴く。優しく、白い毛並を撫でる間に、渦潮模様の着物へ涙が吸い込まれていった。



三枚のフィルムが置かれた額縁の前で手を合わせる。
「なんだァ、神楽。錬金術師ごっこか」
「違うネ」
「おめーは全身持ってかれそうなんだから気を付けろよー」
「銀さん、さりげなく中の人ネタはやめてください」
私が祈ったのは、神様へだったのかな。そうでなくとも、めいいっぱい感謝を捧げないと、と思った。それから、大きな大きな願い事をする。

明日も、明後日も、ずっと。

空は快晴!