「へーいへいへいへーいへーい」
なんともけだるげな声が響く。ソファに寝転んで棒読みに歌う神楽の、やる気なく掲げられた右腕が宙を切る。
「あちぃ…」
「へーいへいへいへーへー」
「あー」
「へーい!…へーい」
「おい、それやめろうっとうしい」
「あつくてあつくて意識が飛びそうネ、ロックンロールでも歌ってないとやってられないアル」
「なんでそーなんの?」
六月にしてこの暑さ。神様がカレンダーを捲るときにうっかり二枚取ってしまったとしか思えない。エアコンをつけるのはまだもったいないし、かといって扇風機は一番暑そうな定春が独占している。しばらく窓際の社長椅子の上で茹だっていたが、日差しが容赦なく攻撃してきたためやむなく神楽のいる対面のソファに避難している。そうだこれは緊急退避だ。仰向けに横たわっているのも陽の光を確実に避けるためだ。昼寝じゃない昼寝じゃない。
カララ、と戸口の開く音がする。
「……ちょっと、あんたら」
買い物袋を提げた新八が怒りを含めた呆れ声を出す。想定済み。新八もこの暑さの中無駄口を叩きたくないのか、それ以上は言わずに黙って台所に袋を置きにいった。顔だけを動かして姿を追う。そういえばもう半袖になっている。
戻ってきてベランダに向かい、また帰ってきて俺の前に立った。眠りこける振りをする。神楽は本当に意識を夢の中へ飛ばしたようだ。寝息が聞こえる。
「洗濯物取り込めって言いましたよね」
それだけ独り言のような声音で言って、溜息を落としまた離れていった。チラと片目を開けて様子を見る。ベランダに行ったようだった。いつものごとく、母親のように叱り付けて起き上がらせ行動させることはしなかった。その労力を使うよりも自分でやったほうが早いと判断したのだろう。暑さとは偉大だ。
寺門通のシングルの旋律が、へたくそな音程でベランダから流れてくる。