五回目の夏という意味

これは夢ですよ、と新八が言った。
夏が暑い。扇風機しかない万事屋の気温は耐え難い数字になっていてソファで寝そべるだけでも苦痛だ。それが夕方にもなると少しだけ涼しくなって過ごしやすくなる。うちわが手放せない。遠くから窓の外の喧騒が聞こえる。打ち水をする人、開店の準備をする人、何事か噂話をしながら通り過ぎる人達、ちりんちりんとベルを鳴らしながら自転車で進む人、喧嘩をする人、何も言わず通り過ぎる人、様々、様々だ。新八はあくせく洗濯機を回しているし、神楽はテレビ番組の録画をしようとしている。定春は夕飯時まで昼寝中だ。新八が今日一日だらけている俺に何も言ってこないことが気にかかっていた。そろそろ夕飯を作る準備に取りかかなければいけない。ちりんちりん、まだベルが鳴っている。そろそろ、そろそろと考え出して今何分経った。寝ていたのか、時刻を確認しようとしても時計を探すのが億劫だ。首が動かない。指先も。俺の身体は少しも俺の言うことを聞いちゃいない。そろそろ、夕飯を作らねーと、神楽が腹へったって言ってうるせぇんだよ。起き上がらないと、新八にまたそんなだらけて、と小言を言われるし、ドッグフードも用意しねぇと、定春に噛まれる。なぁ、それがしたいんだよ、させてくれよ俺に。ちりんちりん、まだ鳴っている。ちりんちりん。しゃらん、しゃらん。ずっと鳴っている。もう充分だ。もう充分聞いた。何分聞いた。もう何年聞いた。シャラン。この音はベルじゃない。


これは、錫杖の。


新八が手を止めている。神楽が俯いていた。定春がぴくりと瞬いて、目を伏せる。
これは夢ですよ、と新八が言った。
もう五回目の、夢ですよ、と、どこか切なそうに、優しい声で言った。