完璧に程近く作られた俺のことをポンコツとのたまう唇は、俺の全身に触れるときは嘘のように優しかった。人間と同じような感度と痛覚を備えさせてもらってきたと俺が言ってからはなおさらに感触は柔らかくなり、かと思えば時折耐えられる程度の痛みを与えて嬌声を上げる俺の反応を楽しむようになった。奴本来の性質であるその加虐性を露にした表情を見る度に腰の奥が疼くようになった辺り俺も相当キている。被虐趣味のプログラミングなんて入れた覚えないんだけどな、と以前言った時、奴は一瞬目を丸くした後愉快そうに喉をくつくつと震わせて言った。
「そりゃ俺がお前に教えこましちまったんじゃねぇの」
そんな言葉を形作った唇は今俺のストレートな金髪に寄せられ、触れては離れ触れては離れることを繰り返している。色んな意味のくすぐったさから逃れようとしても、腰にがっしりと回された腕がそれを許さない。結局為すがまま項垂れるような態勢で銀時の胸板に頭を垂れている。以前はこの男から全てを奪ったというのに情けない。
いや、実際は奪いきれてなどなかったのだ。機械である俺は洗脳という物がどれ程人間に効果的でまた脅威であることか知っていたので、有無を言わさぬ強力な手段としてそれを選ぶことは当然だった。まさか、洗脳すらも通用しない絆を持った連中が相手などとは予測していなかった。今になってあれは完全に俺の落ち度だと言える。つまり――あの時点で完璧ではなかったのだ。自分は。そんな自分を、どんな制裁を受けても構わない立場の俺を、あいつらは蔑みも壊しもしなかった。修理をし終えもう洗脳を使えなくなった状態で再び現れた俺を、俺のパーツと野望を破壊した張本人はポンコツと呼んで受け入れてくれた。あの時の気持ちはどれだけ俺の記憶情報を探っても該当できる名前が見つからない。正直癪だったが、そいつなら知ってるかもしれないと同じ機械である家政婦に訊くと、「そういうものです」というおよそ機械らしくない回答が返ってきた。
「ハァ? どーいう意味だよ」
「だから、そういうもの、なんです」
言ってる意味が分からない、といった心情を隠しもしていない俺の顔を眺め、からくりメイドは微笑んだ。