散歩に行ったんだよ。一人で。俺んち、定春っていうドデケェ犬がいるんだけど、ソイツの散歩じゃなくて。あー、っていうか、最近は俺が行かせる必要もそんなにねェんだけどさ。とりあえず、一人で、外に出掛けたくなってよ、パチンコ打ちてぇとか、食材買わねェと、とかじゃなくて、外を単に出歩きたくなって、なんつーの、気分? うん、なんかそんな気分だったんだよな、俺も、歳くったのかな、って。昼下がりに、散歩なんてよ。でもまァなんか、悪い気分でもなくてよ、ぶぅらりぶらり、かぶき町を、散策して。特に何もなくて。めずらしいんだよ、俺が出歩いて何も起こんねェの。自意識過剰とかじゃねェよ。だぁれにも出会わなくて。何かおかしな騒動にも出くわさなくて。それでいーんだけどよ、なぁんか、なんか足んねェなー、って。うっすらとだけ思いながら、でも、静寂っていうのを俺も楽しめる年頃になったワケ。だからそれでよかったんだよ。良かった。だけどな、こっからなんだよ、こっから。そう、あー、そう、起こったんだ。変なことが。あの、なんつー言えばいいのかね、霧? みたいな。もやみたいな。アレが一瞬見えて。でもすぐ消えてよ。見間違いかと思った、んだけど、気付いたら街の中で、いや、最初から街の中だった。街だった。かぶき町。でも俺、見えたんだよな。遠くの、遠くの、目に見える位置に。眼鏡、かけた姿の、アイツは、新八だったと、思う。新八は、俺の、俺がやってる万事屋の、従業員でさ、家事やら雑用やらやらせてて一緒に飯食ったり、奴は今もう独り立ちしててよ、実家の道場にかかりっきりなんだけど、俺への小言が相変わらずうるせェのなんの。なんつーの、新八は、あいつは、姉ちゃんと二人暮らしで、父ちゃんと母ちゃんはずっと昔に死んだ、って。言ってたんだがよ、あれ、その、俺の、幽霊じゃねェよなあれ。ああ、と、その、新八と、お妙がよ、母ちゃんと父ちゃんと暮らしてた。剣術道場も盛況に賑わってて、アイツ、ちょっとわがままな性格になってたな、妙も、なんかちげェ雰囲気出してた、ありゃァ、キャバ嬢やったりしねェな。きっと。そういう、そういう世界を見てさ、まァ俺も経験長いから、ああこういうパターンね、そうそうってなんか納得してよ。そしたら予想通り、神楽も見えたんだよ。神楽も俺のとこの従業員で、転がり込んできた大食らいで。アイツの食費に何万飛んだか、や、いいんだけど、そんなこと言うとアイツらにどうせパチスロや競馬でスった金額訊かれるしよ、そこは銀さん痛いところかな、って。それで、まァ、アイツも、母親亡くしててよ。兄ちゃん出てって親父も帰りがまばらで、地球に、母親との約束で行くはずだった地球に、一人で来やがった。アイツは、まだ十四で、ま、十四ももう立派な年齢さね、それから二年経って、十六でもう充分大人びちまって今は尚更、アイツの兄貴も親父も、まァ色々あってわだかまりが解けてよ、アイツの望むような、家族に、あァ、なった、なァ、かぶき町から烙陽まで徒歩で行けたっけか。マミー、って呼んだらよ、えれェべっぴんが振り向いて笑ってんだよ。嗚呼コイツ、神楽の母ちゃんだ、って一目で分かる顔してて、アイツ、神楽、神威も、べったりだよ。親父の禿げはそのままだったな。そこはどうにもなんなかったのかな神様。幸せそうなツラァしてよ。そうだよ、家族がそこにいた。でもよ、俺。俺ァ。定春。定春が目に見えた。嗚呼アイツも、巫女姉妹と兄弟と仲良く暮らしてて。借金にも追われてなさそうだった。暢気なもんだよ。腹ァいっぱい食ってたろうな、ダンボールに入ることもなく。アイツはよ、うちの傍の道に捨てられてたんだよな、拾ってください、って。神楽が拾って、そんで、俺んちの、万事屋の、家族になった。あァ、で、今度は何だと、俺はもう大体予想はついてたよ。四人家族で暮らしてるヅラに、嫁さんと暮らしてる長谷川さんに、大家族で住んでる、アレはツラがすげェ和らいでたから気付きにくかったが、土方だと思う、多分。ミツバの姉ちゃんと母ちゃん父ちゃんと暮らしてる友達がたくさんいるような沖田。あああれはドSにならねェな、と確信したね、いや、なったかもしんねェけど。ゴリラは、近藤は田舎の道場継いでたよ。アイツら。アイツら、俺は、あとそうだな、辰馬や高杉も、自分の家継いで、生きてた。俺は、だからよ、嗚呼これ嫌な予感すんな、って。俺、なァでも俺、なんで。何で此処にいるんだろうなァ、松陽。
俺も誰かの女の股から産まれたはずなんだがな、どうにも覚えちゃいねェ。神様が、作者っつー名前の神様が、俺たちを産み出して、俺たちは誌面に載った。なァ、それと関係あんのかね。俺たちは。かみ、なァ、松陽、俺ァよ、俺は。
「坂田銀時」
何フルネームで呼んでんだよ。わァかってるよ、んたこたァ。俺ァよ、夢の醒め方も知ってんだよ。知ってて、此処まで来た。俺はただ歩きに来ただけだからな。最後には、帰んだよ。散歩なんだから。帰るよ、松陽。
なァ最後にもう一度だけ、名前、呼んでくれねェか。
「君にしてはめずらしい言葉だね、銀時」
俺も歳とったってこったよ。じゃァな。邪魔したぜ。先生。松陽。
「銀時」
「銀時」
「君と君達に幸いあれ」
「消えたくないよ」