私の

「あっ、ん、ア、」
咲希の嬌声と、自分が鳴らす水音だけが響いている。服越しに胸に軽くキスをすると、ビクリと跳ねる身体がかわいい。
指で触れた時にもう下着は濡れていて、今はもうこれ以上濡れないように脱がしてある。
もっと乱してあげたくて、バラバラに指を動かした。私の指の動きひとつひとつに咲希が反応して、それがなんだか心地いい。
ゆっくりと、でも時々緩急をつけて、親指で咲希の一番弱いところを転がせば、一際可愛く高い声をあげて咲希は喘いだ。
夢中になって咲希を気持ちよくさせていると、ふいに、シーツを彷徨っていた咲希の腕が動いて、手近にあったぬいぐるみをぎゅっと握った。
そのまま、引きずり込むように胸元に移して、快感の衝撃に耐えるように強く抱き締める。涙目で必死になってそうしていて、多分無意識にやったんだろうその行為に、私は酷く昂った。
思わず強めに突起を押し潰してしまって、咲希がまた高く声をあげた。謝る余裕も頭に生まれない。咲希が可愛くてくらくらする。
咲希が強く握り潰しているおかげで、ふわふわと柔らかいぬいぐるみは可笑しな顔になっている。でも咲希をここまで乱しているのは私なのだから、悪いのは私なのかもしれない。ごめん、ぬいぐるみ。
咲希のベッドの上にはいつも何かしらぬいぐるみやクッションがあって、種類は時々変わっている。ベッドの上以外に置かれていることもあるし、きっと見たことある数よりもっとたくさんの種類がどこかに収納されているんだろうな、と思う。
司さんが贈ったものだったり、とーやくんと呼ばれている司さんの友達がクレーンゲームで取った景品だったり、私達四人でフェニランに行った時に買ったフェニーくんグッズだったり。新しいものが増える度に咲希が嬉しそうに説明してくれるから、割と内容は覚えている。
この今咲希が握っているぬいぐるみは確か、トーヤクン、が取ってくれたものだった気がする。以前、雛祭りの日に本人にも会った。クレーンゲームが得意で、取った景品の半分くらいは司さん経由で咲希に渡っているらしい。だからなのか、部屋にあるぬいぐるみの多くがそのトーヤクン経由のものだ。咲希もこの間、「またとーやくんがぬいぐるみ贈ってくれたんだぁ、このうさちゃんのゆるいかお! たまんない!」とはしゃいでいた。……そのうさぎを、咲希は今必死に縋るように抱いている。
わかっているのだ。理不尽な感情なことは。
わかっている、けど……ちょっと、面白くない。

青柳さんが何一つ悪くないことも、うさぎのぬいぐるみが悪くないことも、偶然それを手に取った咲希が悪くないこともわかっているのだけれど、湧き上がった我儘な感情が止められない。
縋るなら、私の。
「咲希」
名前を呼ぶとずっと目を瞑っていた咲希が瞼を開いて、涙の張った瞳でこっちを見上げる。
「しほ……ちゃん?」
舌っ足らずな声にドキっとしながら、腕を伸ばして、咲希の頭より少し離れた位置にある、クッションを手に取る。
「……掴むなら、こっち」
我ながら恥ずかしいことをしている自覚がある。声がぶっきらぼうになりすぎてなかっただろうか。咲希はぱちぱちと目を瞬かせて、ふわふわとした顔のまま言われた通りに私からクッションを受け取る。咲希の手から離れたうさぎをそっと持ち上げて、申し訳なくごめん、と内心呟きながら、優しく元の位置に戻した。咲希はぼぅっとしながらクッションを抱き締めて、少ししてからハッとした顔をして、それから、ふにゃふにゃと顔を崩して笑いだした。
「えへへぇ」
「……何、その顔」
「だって、しほちゃんが」
「私が?」
「ふふふー」
にこにこ笑顔の咲希はそのまま近付いて、私の顔に軽いキスをたくさん降らせた。ちゅ、ちゅ、と甘いリップ音がたくさん鳴る。
「しほちゃんがくれたクッション、渡してくれたから」
花が咲きそうに咲希は笑う。とびきり嬉しそうにそう言われて、恥ずかしさから頬が熱くなるのがわかった。
ふわふわでふかふかのクッションがたくさんある咲希の部屋。好きなんだろうな、と思って、偶然良さそうなものを見つけた時にプレゼントしたことがあった。
咲希は大事そうにクッションを抱き締めて、また相好を崩す。
「咲希、続き、して、い?」
「……うん、いいよ」
お互いに真っ赤な顔をして、それでも誰よりも幸せな気持ちでキスをする。

「咲希、まだ喜んでるの?」
「だって、しほちゃんがやきもち焼いてるの見せてくれるようになったの嬉しいんだもん」
「……まったく」