僕も宇宙に行ったことがあるんだ。ああ、うん、喩えでね。も、って言うのはおかしいかな。司くんだって宇宙空間まで飛んでいってもらったことはないからね。……まあいつか実現してみたいかと言われれば肯定するけど。話を戻すよ。というより、宇宙に行った話をする前に、話しておくことがあるんだ。前提みたいなものだね。
「危ないから離れていてください」、って言い方があるだろう。演出装置の試運転をする時に、僕も言う言葉だ。僕はね、僕そのものが、そうだったんだ。噛み砕いて言うと……心配してくれてありがとう。大丈夫だよ。あのね、夢を追う少年は周りから、そういう対象として見られていたんだ。危ないから離れてください、ってね。……うん、僕が孤独だった話は以前もしただろう。仕方ないと、思ってたんだ。みんなの心配も不安もわかるし、でも僕は自分のしたいことを曲げたくなかったから。だったら、独りでやるしかない。それでいいと、あの頃の僕は、思ってた。僕は僕のできる範囲で、ショーをやりきる。それでも楽しかったんだ。思うショーができないよりはずっと。だから独りで「回り」続けて……。そんな時、転機があった。うん、想像の通りだよ。司くんたちに、出逢えたんだ。
僕が主に司くんをよく空に飛ばしたがる理由を、ルカさんには話していたかな。僕も無意識で、思いも付かなかったんだけど、どうやら昔に読んだ小説がきっかけだと最近気付いたんだ。砲弾の中に人が入って月へ飛んでいく、その話がすごくお気に入りで。
宇宙に、僕も飛べたんだ。飛んだら見えた景色が全く変わっていて。輝く星の黄色、満開の花のように元気なピンク、どこまでも楽しげな緑色、落ち着いていて優しい青。傍にいた控えめな緑色が向こうに加わったと思ったら、僕に手を伸ばしてくれた。黄色もオレンジも赤もピンクも、色とりどりに笑顔で、かつての少年は、今なら、地球全部に、手が届くんじゃないかって。僕は、もう僕たちになったから。
これが僕のこの曲を聴いて思い浮かんだ話。聴いてくれてありがとう、ルカさん。
「いいえ、話してくれてありがとう類くん。聴けて嬉しかったわ。わたしも、この曲が大好きなの。くるくるくるーって回りながら歌うと、もっと楽しいわぁ♪」
「いいね、僕も演出をつけたくなってきたよ」
「それじゃあこっそりふたりでショーを考えて、ミクたちの前で歌ってみましょう。きっととっても楽しい、わぁ……ふわぁ……」
「ルカさん、眠るならこの枕を使って欲しいな。改良版だよ」
「ありがとう~類くん。まぁ、ふわふわ~できもちいい~わねぇ……すぅ」
「おや、感想を聞こうと思っていたんだけれどね……またの機会にしようか。見ただけで、改良は成功したと思っていいのかもしれないけど」
「すやぁ~……類くん」
「何だい、ルカさん」
「類くんは、みんなは、きっと離れても、側にいてくれると思うわ」
「! それって……」
「回り疲れても、大丈夫。みんな、ショーが好きだけど……ショーが関係なくても類くんのことが大事で、大好きなの、類くんだって、そうでしょう?」
「…………うん」
「たくさん楽しく歌って疲れたら、たくさんゆーっくり眠って、歌いたくなったらまた歌うの。この曲は、回り始めた『私』がたくさんのひとに愛されて今でも回り続けられている理由の、大きなひとつだって、わたしも知っているわ……ねぇ類くん、眠って起きたらまたこの曲を歌ってもいい? 類くんが聴かせてくれた話と、わたしが今感じた想いをこめて、もう一度歌いたいの。それを類くんに聴いて欲しいわ」
「もちろん。楽しみに、待っているよ」
「よかったぁ……これで安心して……眠れる……わ、ねぇ……すぅ……すぅ……」
「おやすみ、ルカさん。……ありがとう」