惑星

「逆に考えて」
と彼は言う。
「我々は取り残されたのではなく選ばれたのではないだろうか」
「というと?」
「我々は惑星の外に広大な宇宙があり、数多の星々が浮かんでいると思いこんでいたが、実際に宇宙なんぞはなく、ここの外には何もない。惑星を出て行った者は皆、その虚無に沈み消えてしまった」
「馬鹿馬鹿しい」
溜め息を吐いた。
「そんな訳ないだろ、と思っただろ、今。でも、今まで抱いていた前提が確実なものだという証拠も持っていないだろう」
我々は宇宙を見たことがないからな。ここにいるもの以外でも、誰も。

夜風は冷たく、身体を撫ぜてゆく。
萎れた煙草が最後の灯を点けて、ほとんど灰になってしまった。
白い息を長く吐き出す。

ばかばかしい。

彼は読んでいた重い本を閉じて立ち上がった。衣服に付いた埃を手で払い落とす。
「さて」
移動しようか、と号令した。
無数の音が小波のように広がっていく。立ち上がって、息を吸い込んだ。
「もう五十年も経ってしまったからな」
「いつになったら終わるんだ」
「さあ」
僕にも見当がつかない。彼は笑う。
真実を確かめたくとも、この重い身体が地上から離れなかった。
星はいつまでも変わらない。
終わるべき時機を計りかねて、小さな生命体が生き永らえていた。

「煙草をもう一本吸いたい」
「好きだね」
世界の終わりなのにさ。