加州清光というのは臆病な刀であった。常はおどけたような口振りが多い中、時折表情に影が差す。少しでも傷を負うと途端黙り込んだ。爪が欠けたなど微細すぎることでも。その刀はむかし修復不可能という理由で持ち主に手放された。それを今でも気にし続けている。加州清光の求める可愛らしさは隙がない。加州清光が隙を許さない。完璧に可愛くあらねばならぬ、どんな時も。見目汚い理由で捨てられるなど、もうごめんだった。
大和守安定はそんな加州清光を馬鹿だと思っている。少しだけ思っている。重傷で帰還し、手入れ部屋にも行かず今の主にも顔を見せずひとり自室に向かおうとする姿などには、強く思っている。馬鹿なやつ。振り向かれ、睨まれる。
「そっち、手入れ部屋じゃないよ?」
大和守安定は思うのだ。お前は別に主が自分を捨てる日が来ると本気で思っているのではないだろう。ただ、怖いだけだろう。と。
微笑んでやる。先に折れたらむこうの負けだ。溜め息を吐かれた。何に対してか。
加州清光は臆病な刀であった。差し出された手を信じきるのがおそろしい、人らしい付喪神だった。