相反していとし

「抱き潰すやもしれないからな」
「いいですよ、だきつぶされたいです」
「たわけ、本当に潰れるぞ」
「えへへー、それでもいいですよ、しあわせです」
にしし、と幼子の姿で笑う。勘弁が過ぎる。
押し倒して、覆い被さってみる。照明の影の中、すっぽりと収まってまんまるとした目がこちらを見つめる。……正常位でやったことなどあっただろうか。爪の先で頬を擦ると子猫のように目を瞑った。愛らしい。愛らしい。食べてしまいたい。大事にしたい。

練度もそれなりに上がり、巴形や静形が顕現したのもあって育成の必要性がそちらに移った。自分は戦場に出る頻度は減ったが、修行を経た今剣は違い、重要な戦力として最近でも出ずっぱりな活躍をしている。得意気に戦場を駆け回り、今日も誉をたくさん取ったと声を弾ませて報告する今剣の話を聞くのは好きなので構わないのだが、一点困ったことがある。
発散の量が、合わない。
元々性欲含め様々な欲や悩みを纏めて戦にて蹴散らしてゆくのが我らであった。そうして残った体力と欲で(それでも十分有り余ってはいたのだが)閨を共にしてきた。それが最近合わない。いや、合わないだろうと思う。考えてみれば分かる。分かるからこそ接触すら慎重にしていたのを当然のごとく勘づかれ、詰め寄られ、いつの間にやら膝に乗り上げられて、それでも下ろしたことに頬を膨らませられた。既に湯浴みは済ませてあとは寝るだけだ。このふたりきりの部屋で。眠るだけなのだが、この小天狗は譲らない。わかっている。だからこそ心底参った。
とまぁ、そういう経緯である。

柔らかな接吻を降り注げばくすぐったそうに身を捩る。
「岩融、しらないんですか」
「何がだ」
「ぼくだってがまんしてきたんですよ」
接吻をやめ顔を見ればそこには僅かながら欲が灯り始めている。ちぃ、と舌打ちが出た。
「そんな顔をするな」
「むりですよ」
「抑えられんだろう」
「おさえなければいいんです!」
「馬鹿者」
首筋に軽く歯をたてて、その後きつく吸った。あえかな声が聞こえる。
胸元を探りいきなり先端を強く摘みあげれば、ひゃあ、と甲高い悲鳴があがった。ぐにぐにと着衣越しに苛め続ける。
「ん、ん」
「今日の俺は手加減してやれそうにないぞ? 止めて欲しければ今のうちだ」
「んんー!」
口元に手をあてて、今剣は必死に声を抑える。久方ぶりに見たその姿に頭がくらくらした。碌に最後は声を抑えられなくなるのに、と余計なことまで思い出す。思わず手に力が入り、ぐりり、と先端を押し潰した。
「あ、や! いわ、とお、し」
「……今日は随分と好いようだな」
「わざ、と、いって、るんですか!」
涙目で腹を蹴られる。少しも痛くない。
「…………い、ですよ」
「ん?」
「いわ、とーしのせいで、いたいのも、きもちよくなっちゃったから、だから……うう、あ!」
「はぁー…………………………」
「なにためいきついてるんですか!」
「反省しておるのだ。過去の分も、未来の分も」
口を吸い、目を合わせる。本当にいいのか、と目で問うて、いい、と、目で答えられる。口付けを深めて、角度を変えた隙に舌を差し込んだ。口腔を好きに弄んで、唇を離してから一旦距離を置いた。唾液の糸が途切れて、落ちる。
「……手加減できんぞ」
「わかってます」
むしろたのしみです、と小さく聞こえて、さてどうしてやろうかと、火がつく。
大事にしてやりたい幼子を、滅茶苦茶にしたくて仕様がない。全く呆れた精神だ。
着物を肌蹴させて、ちりちりと脳裏が焼けつく。
せめてあまり痛くないように、とすぐにでも反故にすることを思いながら、生肌に熱い手を這わせた。