せいの乗算

兄さんに無理矢理突かれるのにカラダが悦んでる♡ パチパチして強制シャットダウンするまでイかされるの癖になっちゃってる♡ きもちいい♡ きもちいい♡ きもちいい♡ きもちいい♡♡♡

思考ログがエロ同人みたいになってる。とか言ったら兄さんに色んな気持ち抱かせちゃいそうだから言わないけど。
学生時代はまだ制御できてたんだな、って僕に関しても兄さんに関しても思う。寮生活だったのが何より大きい。いくら兄さんが個室だったとしても場所は学園の敷地内だし、僕が編入してからは別室になって尚更だ。兄さんの部屋のセキュリティをガチガチに固めたところで心から安心できる訳でもない。触れ合ってキスをしてちょっと盛り上がってその先までしたとしても、ここ最近僕と兄さんがしていることに比べれば慎ましやかにも程があった。所謂セックス用のギアがまだ全然完成してなかったのもあるけど。僕はずっと考えて材料さえ揃えばいつでも製作できるように設計プランを構築していたし、改良点を思いつけばその都度アップデートもしていた。兄さんにそのことを伝えたら「ちょ、ちょちょちょちょっとはやいんじゃないかなおおおると」ってものすごく動揺されて、それから、気持ちは嬉しいけど在学中に全部は完成できない、って結論を言われた。それはつまり未来の約束も同然で、兄さんも同じ気持ちは持ってるんだ、と思ったら嬉しくて、思わず抱き着いたら痛がりもせずに抱き締め返してくれた。結局最低限のパーツだけ再現した試作品を作って、皮ふと皮ふで触れ合う感覚を得られる面積を増やしてもらった。「お前が全力で抱き締めたくなった時に遠慮しなくてもいいように」ってパワーの最大出力も調整して、接すると痛みを生みそうな部位は柔らかくして。どれだけ全力に見えても出来る限り怪我させないように遠慮していたのを、兄さんには見抜かれていたみたい。でも僕の何があっても絶対に兄さんを守りたい気持ちと僕にしか出来ないことで役に立ちたい気持ちも変わらなかったから、試作ギアを換装するのはいつも短い時間だけで、でもそれで得られた幸福感は測定できない。だからその時の思い出が詰まった試作品は大事に取ってあるのを兄さんには内緒にしてるけど、バレちゃってるかな、バレててもいいけど。つまり、約束通り、卒業後に僕と兄さんでギアを完成させた。愛と技術の詰まった結晶だ。改良の余地はまだあると思う。試してみたいオプション機能もたくさんある。それでも十分すぎるくらいふたりで愛しあうために機能を充実させた完成版は、作ったその日から役目を果たし続けている。
今日だって、疲れて帰ってくる兄さんを待つ間に準備を完了して換装を済ませている。
「誘ってる」って言うのかなこういうの? セックス用のギアを着けて待ってるんだから、所謂「勝負下着」ってのを着て待ってるのに等しい状態だと思う。それともYESって書かれた枕を持って待っているのに等しい?
他愛ないことを考えて兄を待つ。今朝見たバイタルからして今日で間違いない。今日、確実に、抱かれる。
それも酷く。

期待してるのは僕の方なのにまるで兄さんのせいみたいだ。卒業して二人暮らしになって抑える理由が何もなくなった僕たちはあっという間に遠くへ飛んでいった。止まらない好奇心に、もっと触れたい、見たい、知りたいって欲求、快感の中毒性。噛み合いが良すぎて加速が止まらなかった。お互いやりたいこともやるべきことも当然あって、離れる時間も増えて。それがスパイスみたいに降りかかってまた加速する。
兄さんはいつも酷いくらい優しい。優しいけど意地悪だし、そして本人も想像してなかった以上に、『ハマって』しまうようだった。
我を忘れた兄さんに組み敷かれた最初の日は、兄さんの機嫌指数が最悪値に至った日だった。
その数日前から「悪い予感がする」と言って僕にあまり近づかないように警告していた兄は、あの日ついにどん底に落ちきって、見ていられなかった僕の『慰め』に何度も拒否をした後、絆されてようやく誘いに乗ってくれて、いつも通りの調子を取り戻した、かに見えた次の瞬間、信じられない握力で僕を掴んで、それから、終わるまで一度も離してくれなかった。僕は声帯ユニットが壊れるんじゃないかってくらい啼き叫んで、体躯の大きい兄さんが思い切り動いても大丈夫なくらい耐久性を上げたはずの機体が軋むくらい揺さぶられて、日付感覚も曖昧になるくらい長時間抱かれ続けた。兄さんの体力もちょっとは成長したみたいだ。なんて暢気な冗談を言えないほど翌日の兄は凹んでいた。「ついにやってしまった……」とこの世の終わりみたいな声音を出しながら、でも過剰な卑下をしない分自尊心も成長した方だと思う。それに安心しながら気が気じゃない事実に気づいてしまった。「ついに」ということは兄さんもこの事態を想定していたということで、だから警告もして対策もしていた訳だし、薄ら兄さんの危惧している事を予測しておきながら誘いをかけたのは僕の方で、行為自体は合意の上だ。でも予測と実際に事の起こった後にはズレがある。いや、ないかもしれない。僕は悪い弟だから、兄さんがこんなに反省するような事態が起こるのを期待していた。兄さんに、思いきり酷くされてみたかった。
で、されてみた結果。
気づいてしまった。

これほんとうにすっごくきもちいいと。

目がバチッと合う。気づいてしまった。
これ本当に凄く気持ちが良いと、両方が思っていることに。

僕ら兄弟は頭脳明晰ゆえに先にあるものがなにか解っていたのに、まんまと落ちていってしまった。


それで今に至る。
兄に接触を絶たれるのは絶対に嫌だったから、先手を打って兄さんにこれからも触れて欲しい、兄さんとセックスしたい、またあんな無理やり気味な行為になってもいい、むしろまたして欲しい、とお願いを全部言った。当然兄さんは呻いた。呻いたけど凄く長い時間をかけて熟考の末、「いいよ」と言ってくれた。「僕も触れたいし」「というかいいの?」「え、これほんとにええんか?」「いいの?」とブツブツ言う声に「いいよ!」と返した。地を這うような兄の「嗚゛呼゛〜〜〜〜〜〜」という長い呻き声に微笑んだ。それだけ悩んでるのに僕に触れたい気持ちを優先してくれたことが嬉しかった。それに何だか満更でもなさそうな雰囲気を感じるのが尚更嬉しかった。
それからもいっぱいセックスした。酷くされる時の快感が癖になった僕は、困らせると解ってても兄さんに度々ねだった。その気がない時は兄さんに宥められて、ある時は兄さんも応えてくれた。ねちっこくされすぎて僕が拗ねた時もあった。こうやって思い返すと僕って我儘ばっかりだなぁ。
仕事や勉強ですれ違って、お互いが足りなくなってくると、盛り上がる傾向が強いデータも収集できた。疲れて眠っちゃうこともあるけど。
今日は、蓄積されたデータから推測して、酷くされる確率の高い日だった。
だから準備をして、兄さんの帰りを待っている。
こんなに性関連に貪欲になるなんて、僕も兄さんも思ってもみなかった。こんな僕のことを兄さんはどう思っているのかなって、時々不安になる。
きもちいいことは好きだけど、それで兄さんに嫌われちゃうのは、やだな。

ロックの解錠音がする。兄さんだ。

「オルト、ただいまー」
「おかえり兄さん! ご飯食べてきた?」
「うん、連絡通り。はぁぁ〜〜〜〜〜なんとか飲まされるのは回避したけどやっぱ酔っ払った人間と会食するのキッッッッッッツ…………オルトが恋しかった……」
「ふふ、いっぱいぎゅーってしていいよ」
「え? 天使……? いやオルトだったわ。……あ、でもごめんちょっと待って、シャワー浴びて着替えてくる、絶対酒臭いっしょ今」
「別にいいのに」
「オルトが良くても拙者が良くないので……それまで待てる?」
「さっきまでも待ってたから平気」
「うん、待たせてごめん。……すぐに出るから」

荷物を置いてシャワールームに兄が消えていく。……こんなにさらりと額にキスをして去っていくなんてやっぱり兄さんもお酒飲んだんじゃないのかな。それともお酒の匂いにあてられただけ? それともやっぱり僕の姿を見て「誘ってる」って解ったのかな……。「期待してる」ってバレバレだもんね、今の僕。引かれてないといいなぁ。
ベッドの上で座って兄を待つ。落ち着かない。後ろに倒れ込んだらボフッとシーツがいつもより軽量型の僕を包み込んだ。すぐに、って何分なんだろう。体内時計をカチコチと数える。これだけ期待してて今日何にもなかったらどうするつもりだろう僕、と他人事のように考えた。
シャワー音が止んで、しばらくすると足音が近づいてくる。分かっていてそのままの体勢でいた。目を瞑ってみる。兄さんはどんな反応をするだろう。

「オルト?」

部屋に兄さんが入ってきた。ほんの少し目蓋を開けてみる。寝る前のスウェット姿だ。また目を閉じる。兄さんは僕の傍に腰掛けて、頬を指先で擦った。ん、と猫みたいな声が出る。少し息を吐いた音が聴こえて、指先は離れていった。しばらく何にも音がしないから目を開けると、兄さんは魔法でタブレットを引き寄せて、仕事用のメールをチェックしてるようだった。急ぎの用件なんだろうな、と分かる。眠ったふりをして正解だったかもしれない。たとえバレバレの寝たふりだとしても。さっきよりも大きなため息が聴こえて、タブレットが遠くの机上に置かれる音がする。ベッドサイドの冷蔵庫から兄がミネラルウォーターを取り出して飲んでいる間に、身体を起こした。
兄さんの瞳は少し濁っていて、目の前じゃなく先のことを考えている時の目をしていた。気だるそうな瞳が横の僕を捕らえて、もう一度水を含んだ兄さんがそのままキスをしてくる。上から流し込まれるまま冷えた水を入れられて、反射でゴクリと呑み込む。その水を追うように舌先が伸びてきて、ぐるりと咥内を一周した。それだけで目尻に水分が溜まってしまう。強く両手とも捕まって、その強さに、一瞬で記憶情報が駆け巡って回路が誤解する。ペットボトルがサイドテーブルにぶつかる音がした。クチュリ、とわざとらしく音を鳴らして舌が離れていく。首筋に息がかかる。今からだ、と思った矢先、急に、兄さんの手の力が抜けて、僕の身体にしなだれ掛かってきた。そのまま抱き締められる。肩口に顔があって、表情が見えない。

「……兄さん?」

問いかけてみても返事はない。でもこの抱き締め方は知ってる。疲れてる時に癒して欲しい時の抱き締め方だ。だからさっき言ったようにぎゅーっと抱き締め返す。労わるように優しく頭も撫でて。今日はこっちの気分だったのかな。
それにしてはさっきの責め方は本気だった。おかげで熱は持て余されている。少しだけ困ってしまって「兄さん?」と今度は確かめるように呼んでみた。
大きな手のひらで後頭部を擦られて、突然の刺激に驚く。一層強く抱き締められた後、少し力を緩めて兄さんが口を開いた。

「ごめん」
「いいけど……何で?」
「イライラでオルト抱きたくないし……だから抱き締めさせてて」
「……うん」

気持ちが伝わっていたことにストンと心が落ち着く。途中で思い留まったんだろう、兄さんの優しさが沁みてきた。

「でもちゃんと抱くよ。期待してるだろ、お前も」

耳元でそう言われて、頬が熱くなる。隠しきれないことは解っていたけど、ハッキリ言われてしまうと恥ずかしさが湧く。

「に、さんにプログラムされちゃったから……メチャクチャにされるのがイイって」
「おやぁ人のせいにしちゃいます? 自分自身でそうなるように望んだのに?」
「もう! いじわるしないでよ!」

揶揄われて羞恥の行き場がなくなる。兄さんばっかり余裕があるみたいでずるい。疲れきって癒しを求めている兄に抱かれたくて堪らない弟、の僕、を客観視して居た堪れなさが凄い。涙が滲んできた。兄さんはいつの間にか顔を上げていて、優しい顔で優しく涙を拭ってくれる。

「ごめんごめん、……実際結構困ってるんだよ僕」

心底参るように言われた言葉に、パチパチと瞬く。

「兄さんが? 何で?」
「お前がどこまでも許してくれるから……たまにおかしくなる」
「それのどこが困るの?」

わからない。訊くと兄はまた顔を隠した。

「……やりすぎてお前に嫌われたらどうしよう、って」

もう一度瞬いた。そして笑った。

「ふふっ、そんなこと気にしてたの兄さん」
「だ、だって自分でも引くくらいこんなにがっつくとか思ってなかったし……でもお前だって喜んでるから、際限が見つからなくなって、いつか自分勝手に動いてお前の意思を見失うんじゃないかって、怖い」

心底怖がって身体の大きな兄がぎゅうっ、と機械の僕を抱き締める。僕の意思を、大事にしてくれてる。

「そう思ってくれてるってことが、嬉しいよ。僕のこと大事にしてくれてるんだね」
「当たり前だろ、というか、僕がお前に嫌われると生きていけないから、ただの拙者のエゴ」
「……んー、似た者同士なんだね、僕たち」
「というと?」

顔を合わせたくて少し動いて兄さんの顔を覗き込む。

「兄さんは僕が全部ぶっ飛んじゃってとんでもない淫乱ドスケベ言動しちゃっても嫌わない?」
「いん……いや突然パワーワード出さんといて。頭混乱しますわ。……嫌うと思う?」
「それをね、僕は結構何度かシミュレーションして怖くなる」

息を呑む音が聴こえた。

「オルトが? ……そういうこと」
「だから似た者同士だなぁって」

嬉しくなってぐりぐりと頭を胸に擦り寄せた。優しい手付きで兄さんが頭を撫でてくれる。

「そうだね。……ちなみにどんな淫乱ドスケベ言動するの?」
「えーそれは兄さんがさせてみてよ、実際に」
「オルトの想定が本当に予想外の方向性の可能性あるけど……ま、多分最終的に全部可愛く思うだろうからオールオーケーですわ」

本気でそう思ってそうな声色に面食らった。今度は隠すために胸に顔を埋める。

「照れちゃうよ」
「今更? ……何にイラついてたかも忘れてきた。拙者の弟が可愛すぎてセラピー効果が凄すぎる件」
「ふふ、兄さんが元気になってよかった」
「オルトのおかげだよ、いつもありがと。……ご褒美は何がいい?」
「我を忘れた兄さん、かな!」
「難易度高〜、破壊力抜群。ほんとにそんなのでいいの?」
「いいよ、だって兄さんだもん。兄さんのぜーーんぶ、受け止めさせてよ」
「すっごい殺し文句言ってるの、自覚してる?」

一瞬息を忘れた顔をした兄さんが、少し怒った気を纏わせて、真っ直ぐ僕を見つめて言う。
その怒りの中身を知ってるから、僕は嬉しくて笑った。

「ふふ、やる気になってくれた?」
「しょうがないな……ショートしたら責任もって直すよ」
「うん、よろしくね」

兄さんに諦めのため息を吐かせるのに成功した。ショートが物のたとえでも実際にそうなっても構わない。
嬉しくてぎゅうぅーーっと抱き着いた。頭のてっぺんに唇が降ってきて、首筋を撫でられる。

こんなことになってるのは全部兄さんのせいなんだから、壊すのも直すのも治さないのも愛するのも全部兄さんと一緒にしたい。