築島さん1

「築島さんおはようございまー……」
「……」
「ちょ、ちょっとちょっと築島さん!」
「はい?」
「どうしたんですかその顔!」
「ちょっと熊に轢かれて……」
「クマ!?」


「築島さん怪我治りました?」
「ああ、うんなんとか」
「昼御飯ご一緒しても」
「いいよ」
「あ、築島さんトマトもちゃんと食べないと」
「苦手なんだよ……」
「知ってますほらちゃんと食べて」
「食べさせてくれ」
「煮込んだらちゃんと食べてくれます?」
「そういう食べさせかたなの?」


「築島さん眼鏡変えたんですね」
「フレームをね」
「触ってみてもいいですか」
「フレームを?」
「わぁー前よりちょっとやわらかくなった気がする」
「違いわかるの?」


「築島さん!? いるならいるって……」
「お前か」
「もうなんで電気つけずに仕事してるんですか」
「つける必要あるか?」
「大アリですよ、外もう真っ暗ですよ今」
「気がつかなかった」
「これだから」
「仕事中断させるの嫌だし」
「これだから本当に」


「築島さん気になってたことがあって」
「何」
「クマに轢かれたって何ですか?」
「一週間前の話?」
「一週間ずっと聞こうか聞くまいか迷ってたんです」
「お疲れ様」
「いや何がおつかれなんだか」
「熊のようなおっさんの乗った自転車に撥ねられた」
「自転車だったんですか」
「うん」
「築島さんタフだなって……」
「疑問持とう」
「なんで顔怪我したんですか」
「転んで」
「あいたたた」
「痛かった」
「吹っ飛ばされた衝撃ってそりゃもう悲惨だったんじゃ」
「受け身取って立ち上がった拍子にふらついて」
「あーもうちょっとわかってたわかってたのに心配したから悔しい」
「受け身取れる俺すごくない?」
「自分で言っちゃったからあんまりすごく聞こえない」


「今日うち行っていい?」
「え、あ、はい……どうぞ」


「どうぞってのもおかしな話」
「何言ってんすか」
「独り言」
「コピー終わりました?」
「あと30秒待って」


「お弁当忘れちゃったそうですね」
「……うん」
「そんな築島さんに今日はお弁当を作ってきています」
「気が利く」
「そう言ってもらいたくて」
「出来過ぎな気もする」
「開けてみてください」
「……う、わぁ……」
「どうです?」
「彩り豊か、バリエーションも多い、ただ俺の苦手なおかずしかない」
「栄養も豊富ですよ」
「地味な嫌がらせされた気分」
「食べられるだけマシです」
「昨日のこと怒ってるな?」
「はい」
「あ、それ俺の」
「いただきまーす」
「俺の持ってきた弁当……」


「ごちそうさまでした」
「懲りましたか」
「ちょっと調子乗ってた昨日は」
「反省しましたか」
「悪かった、ごめん」
「苦手なものもたまには食べますか」
「うん」
「よし」
「おいしかった」
「それはよかった」
「また今度好きなおかずで作って」