「はやかわ、おい、起きろ」
「ん、……」
「遅刻するぞ」
「……え、え? 築島さんおはようございます」
「おはよう」
「い、いま何時ですか」
「お前今日休日だぞ」
「あ……ちょっと、ねぼけてるときに嘘吐かないでくださいよ」
「たのしい」
「つかれた……少し眠らせてくれ」
「ここで?」
「ここで」
「……いいですよ、築島さんがそんなこと言うなんて、よっぽど疲れてるときくらいでしょうから」
「恩に、着る……」
「あ、つきしまさ、待って、毛布……もう寝ちゃった? どうしよう動けないし」
「それで」
「だから」
「だめです」
「なんで」
「なんでもなにもないです」
「おこってんの」
「ちがいます」
「おこってる」
「……」
「……拗ねてる?」
「……」
「ねぇ早川」
「鈍感だなぁ築島さんは」
「お前の口から聞きたいんだ、自惚れじゃないって自信がない」
「……」
「スリッパ買いに行こう、新しいの」
「いいですけど」
「あの、ですねぇ……ここどこだと」
「……」
「……ゴム、持ってるんですか」
「財布の中」
「あー……」
「……何」
「いや、普段あんな真面目に仕事してんのに財布の中そういうの入れたまんまだったんだぁ、って思うと……」
「興奮した?」
「……あー、……早く終わらせてください、家、帰りましょう」
「僕のどこが好きなんですか」
「普通なとこ」
「ハァ?」
「嘘だよ。お前が知るわけない」
「寝物語にお前の知らないうちの会社であった俺の体験談を語ろう」
「どうぞ」
「それじゃあ行くぞ」
「(僕の知らない話、か……)」
「むかしむかしあるところに」
「昔話風」
「早川という男を巡ったうちの会社エース二人の熾烈な争いがありました」
「!?」
「こういう時の顔が、すごいえろい顔なとこも、好き」
「これでわかったでしょう、僕がどれだけ流されやすい男か。こんなやつ、はやく嫌いになってください築島さん」
「どうして」
「どうしてって」
「これでお前のこと俺が嫌いになれると、本当に思ってるの」
「思ってます」
「なんで」
「だって、」
「馬鹿だな、俺が馬鹿」
「僕、築島さんの男の趣味が悪いところだけは嫌いです」
「好きになったのなんてお前しかいないのに?」
「だからです」
「いい趣味してると思ってんだけどな」
「ありえない」
「心外だ」
「なんで僕なんか」
「教えて欲しい? 教えようか」
「お前さ、本当に俺の顔好きだよな」
「えっ、は? え、」
「取り繕わなくていいよお前が俺の顔面大好きなのバレバレだから」
「……や、それは」
「ん?」
「……事実、ですが」
「が」
「が、……え、と」
「うん」
「それだけじゃないので、けっして、信じて欲しいというか」
「うん」
「えー……」
「大丈夫だよ」
「……はい」
「それだけじゃないのもバレバレだからね」
「一言多い」
「この顔面で言うから問題ないでしょ」
「この……はい」
「認めた」
「その顔めっちゃ好きなのは事実なので」
「調子狂うなぁ」
「納豆を弁当箱に詰められるという新手の嫌がらせ」
「あんたそれ好きでしょう」
「好きとは言ったよ言ったけどさ」
「噂になればいい、納豆の臭いさせながら仕事してるって」
「……子供じみてる……」
「喜怒哀楽の表現が弁当なのお前」
「なに笑ってんすか」
「いやだって、これ、ふふ、めっちゃある」
「……好きでしょ?」
「好きだよ」
「冷めないうちにどうぞ」
「冷めそうにないなぁ」
「?」
洗濯物を嗅いでみる仕草を見てしまったからには
「あ、いや、これは」
「……」
「……なんか言ってください」
「……はやかわ」
「はい」
「……」
「え、あ、黙んないでください、というか誤解、誤解ですよ」
「……誤解なのか……」
「え?」
「築島さん反応鈍いからわかりにくい……」
「(反応隠してることもあることは黙っといた方がいいかな)」
「築島さんっ、やだ、ゃ、やめ、て」
「……」
「つきしまさん、なん、で、」
「……ほんとに分かんないの?」