いとしい

 ティッシュ、酢昆布の箱、紙屑。他にも新聞に挟まったチラシやダイレクトメールの残骸、貰い物のお菓子の包装紙など。万事屋のゴミ箱に入っている大抵がそんなものである。定春は賢い犬だ。賢いからこそゴミ箱を倒すような真似はしないが、賢いからこそ中を漁ってみるということも、時にはある。それは大概銀時が誤って捨てたものを拾い、彼に渡して知らせるためだ。
 だから定春は今こうして銀時の背を鼻先でつついている。
「定春」
 呼びかけて銀時は頭だけ振り返る。銀時は定春の黒々としたまあるい瞳に弱い。こういう、どこか後ろめたくて、気持ちの踏ん切りがつかなくて、それで投げ出そうとした気分の時に、この純粋無垢のような瞳に見つめられると、たちまち弱くなってしまう。定春が口にくわえているのは、さっき銀時が捨てたばかりの物だ。銀時がたまたま箪笥の内から見つけたいつかの欠片だ。定春は賢いので、主人の保護者であって家族である男の本当に捨てたいものと本当は捨てたくないものの違いがちゃあんとわかる。銀時はたまらず苦笑した。
「間違えて捨てたんじゃねぇんだけどなァ」
 意図して捨てたのだと言外に表すが、結局は湿った鼻先の諭しに絆される。くわえられた物を受け取って、白くやわらかい毛並みの頭頂部を撫でさすった。定春が笑うようにわんと鳴く。