いとしい

 白く細い指がちいさなビーズにテグスを通していく。神楽はビーズアクセサリー作りにハマっていた。友達のよしこちゃんが鞄に付けていたストラップのきらきらが、少女らしく可愛いものが好きな神楽の目に眩しく、作り方を教えてもらった。始めは細かな作業に四苦八苦していたが新八の助けも借り作品数を増やすうちに、なめらかな手つきで扱えるようになっていた。布団を干していた新八が振り返り、一生懸命ビーズとにらめっこする神楽の姿を見て、微笑む。
 翌日神楽が泣きべそをかいて家に帰ってきた。
「しんぱちぃ、なくしちゃった」
 神楽がどこかでなくしたのは、ピンクの花を模したビーズを赤い糸の先端に繋げたストラップ。神楽が初めて完成させたビーズアクセサリーだった。難しい部分を少し新八に手伝ってもらって、ようやく完成したそれを神楽はいたく気に入っていた。ちょっとぶかっこうだけど、まあいいネ。神楽は呟いて、嬉しそうに自分の傘の柄に括り付けていた。涙に濡れる神楽が手に持つそこには、何も付いてない糸が一本ぶら下がっているのみ。普通に考えて、何らかのはずみでテグスが切れ、気付かぬうちにばらばらとビーズもろとも解けてしまったのだろう。神楽は落ち込み、よしこちゃんからコピーしてもらったアクセサリーの作り方が書いてある説明書を捨ててしまった。
 以来ビーズに触らずどこか浮かない顔をした神楽が、友達に誘われて遊びに行っている間のこと。新八は驚いていた。拾おうと思っていた物があるはずの場所から、目的の物が消えていた。新八は顔を動かしてソファに座る銀時を見る。目的の紙は銀時の手元にあった。今度は、新八は驚かなかった。
「銀さん、ビーズで何か作ったことあるんですか」
「ねーよ、女子じゃあるめーし」
「手伝いましょうか?」
 いらぬ世話だとは知りながら、クスクスと笑って新八は言う。器用な銀時の手が、てきぱきと手順を踏んで桃の花を形作っていく。速い手つきは、神楽が帰ってくるまでに仕上げておくためか。
「アレンジいれてもいいかな」
「いいんじゃないですか」
 夕飯時、神楽が帰ってきた。机に置いてある、見覚えのあるストラップにさらにいくつか花の加えられた作品に、神楽が目を瞠る。
「銀ちゃん、これ……」
 読みかけのジャンプから目を離さずに銀時が答える。
「へー見つかったのよかったね」
「なんか、前作ったのと違う気がするアル」
「……前の形がよかったか?」
「ううん、こっちのほうがずっと好き!」
 そーかい、紙面で口元を隠して、銀時の頬が緩まる。神楽が笑んで言った。
「ありがとうネ銀ちゃん」
「アァ? 俺じゃねーよサンタクロースからの贈り物かなんかだろ」
 そうあんまりベタで季節外れの言い繕いを銀時がするので、横で聞いていた新八が笑ったのだった。