書き出し.meまとめ

朧と松陽

「殺して欲しい」

師が、そう言うのなら、叶えたいと思った。
喜んでこの身を血に染めようと思った。
だってこの身体は先生の血で助かった“もの”。
先生に捧げる“もの”。
先生の手助けができるなら幾らだってしてみせよう。
誰だって殺してみせよう。
先生は、言ってくださらなかったけれど。


「殺して欲しい」

朧はその男から初めてその言葉が零れるのを聞いた。
男の目は出会った時から変わらず凛と研ぎ澄まされ、どこか遠くを見つめている。

殺して欲しいのは誰なのか。
朧は、男にとってそれがただ一人なことをもう知っている。