白い衣服に身を包んだ男が、住宅地の中を進んでいく。
立派な松の木が生えた家の角を曲がると、男は見慣れた顔に出くわした。
「……どうしたの英雄、真っ白な服なんか着て」
住宅地の間にある道にまっさらな白が佇んでいる。
――三野は、目の前の男の衣服を物珍しそうに見つめた。
英雄は、「今日の気分だ」とだけ返して、すたすたと歩き出した。
三野の胸に、嫌なざわめきが湧き出でた。
放課後の帰り道、英雄は昨日固めた決意とその理由を、三野に全て話した。
三野はいつもの別れの言葉も言わずに、急いで角を曲がり切ってトラックに撥ねられようとした。
三野が角を曲がりトラックと衝突するその一瞬。
英雄は、三野の腕を引いて一歩前へ歩み出た。
トラックと柔らかい胴体が衝突する鈍い音。
衝撃で背骨の折れる感覚。
地面に叩きつけられた直後、迫りくる四輪のタイヤ。
白い衣服に、血飛沫が飛び掛る。
――ああ確かに、「白なら赤がよく映える」な。
そう最期に笑んだ男の瞳には、助けようとした友の泣き顔が映り込んでいた。
三野、ごめんな。本当は俺気付いていたんだ。
「アクター」を止める方法。
方法は簡単さ、俺たちの場合、どちらかが意図的に死ねばいい。
自殺だ。
条件に入った「俺」が死ねば、きっと三野はこれから一生アクターのせいで死ぬことはない筈だ。
それに、ずっと俺はアクターに罹っていない人間だと思っていたけれど、ひょっとしてもしかしたら、俺は気付かぬ間に、アクターに罹っていたのかもしれない。
俺が死んだら、この物語は終わってしまう。
ずっと怖かったんだ、自分が死ぬことが。
でも、もう俺はお前が死んでいくところを見たくない。
俺が死ねば、強制的にこの物語は終わりを迎える。
三野の死の連鎖は、完全に断ち切られるんだ。
大丈夫、失敗はないさ。
何故なら――
血に塗れた英雄は、最期に満足げな笑みを浮かべた。
俺は、この物語の主人公だ。